ご挨拶

日本薬物脳波学会
理事長 木下利彦

脳波の臨床的有用性を提唱したHans Bergerは、1930年代にscopolamine、cocaine、chloroformなどによって脳波が変化することを報告しました。1950年代にはTuran Itil らによってchlorpromazineを投与すると単極導出脳波に変化が生じ、その変化は徐波の増加、速波の減少に集約できると報告しました。その後コンピュ−タ−の開発と普及により、従来の視察的観測では捉えることが困難であった変化を把握することが可能になり、すべての向精神薬が脳波に変化を及ぼしていることが明らかになりました。また、その変化が臨床効果と密接に関係していることも分かってきました。そこで、薬物の脳波変化が薬物の作用と密接に関係していることから、脳波変化による薬物の分類が試みられ、脳波変化の類似性から、作用未知の薬物の中枢作用予測が可能になり、新薬開発の一つの手段になるのではないかという考えのもと定量薬物脳波学(quantitative pharmaco-electroencephalography)という新しい学問領域が創設されました。1980年にはベルリンでProf. Hermannらにより国際薬物脳波学会(International Pharmaco-EEG Society)が創設されました。国際薬物脳波学会は2年に一度、ヨーロッパを中心に総会が開催されています。1988年と2006年に日本で開催されました。また、1990年には関西医科大学前精神神経科教授斎藤正己先生を中心に本学会である日本薬物脳波学会が設立されました。以後毎年総会が開催されております。

近年の飛躍的な技術の進歩により、大脳表面の電場構造を二次元あるいは三次元で表示する脳波マッピングに始まり、最近ではdipole推定法、microstate法、カオス解析法、更に逆問題を解く手法であるLORETA(low resolution electromagnetic tomography)法などが開発されています。これらの新しい解析法は薬物による脳波変化の測定のみならず精神疾患それ自体の脳波変化をも測定することが可能となり定量薬物脳波学が果たすべき役割は大変重要であると感じております。定量薬物脳波学の更なる発展のためご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。